コーデックス(食品の国際規格)
7.コーデックス規格の問題点とそれにどう対処するのか?
世界は今、いろいろな食品が各地域で取り引きされ、また加工の方法も技術の発展によって様々に変化しています。こういった多様な食品を摂取する消費者の健康を守り、一定の規格を設けることによって公正な国際貿易を促進しようというのがコーデックスの大きな目的です。
しかし、食品に対する考え方は必ずしも世界共通ではなく、例えば常に暑い地域では、熱をかけない食品はきわめて危険なものと見なされるでしょう。逆に比較的寒冷な地域から見れば、何でもごとごと煮るのがいいとはいわないでしょう。また、寒冷な地域では農薬の使用量も少なくてすみ、食品中の残留農薬も少ないでしょう。あるいは、宗教上の理由から、特定の食品は絶対に食べないという地域もあります。このようにコーデックス規格は各国・地域の歴史的、伝統的食文化の妥協による産物といえるのです。
同時にある食品に一定の規格を与えると、各国食品産業に対し経済的に大きな影響を与えます。特定地域に有利なコーデックス規格が採択されれば、それが世界規格となり、その地域は世界貿易できわめて有利な立場に立つでしょう。コーデックスの会議が白熱し、場合によってはなかなか成立しがたい、これが一つの側面でもあります。
コーデックス会議での原則は、各国のコンセンサスを得て進めることにあります。しかし、経済的利害の対立が激しかったり、基本的な考え方の相違がある場合には容易にコンセンサスを得ることができません。そこで問題になることの一つは、部会会議の運営をどのように行うかということです。
会議の運営は担当国(ホスト国)が議長となって、原則的に担当国内で行われます。議長は議事運営に大きな権限がありますから、極力中立的に運営をしないと結論に偏りが出ます。現にナチュラルミネラルウォーター部会でそのような例が見られました。また、地理的にホスト国の周辺国は部会に出席しやすく、出席の多い国の意向がどうしても結論を左右しがちです。
コンセンサスを得ることがきわめて難しい場合、投票になることもあります。例えば、ナチュラルミネラルウォーターのコーデックス規格では、再度検討の意見が多かったので投票にかけられたのですが、33票対31票、棄権10票の僅差で採択されました。ほぼ半数の意見がありながら、再度検討の機会を奪われたのは問題だと、そのあとで大きな関心を呼びました。このように、投票が必ずしもいい方法というわけではありません。
このようなコーデックス規格策定の方式から考えると、自国の意見をきちんと会議の場で主張することがなによりも大切なことが分かります。書面による意見も大事ですが、最終的には会議の場で主張しなければ、大勢に影響を与えることはできません。単に主張ばかりでなく、相手の意見を聞きながら臨機応変な対応が必要なのも当然です。
そこで起こるのが言葉の問題です。通常コーデックスの会議は英語、フランス語、スペイン語の3カ国語で進行しますが、ワーキング・グループは英語だけで行われることが多いのです。日本語が公用語になる可能性は今のところ低いので、少なくとも英語で論議できるだけの語学力と、それを裏付ける専門知識が必要です。
さらに、コンセンサスを得るためには1カ国だけが主張しても通りません。意見を同じくする国々と協調するか、あるいは自国の意見を他の国々によく説明して賛同を得るという努力が欠かせません。当然これは日常の活動として必要と考えられます。
以上のような仕組みを理解した上で、それに対処しなければなりません。まず大事なのはコーデックス規格に対する考え方です。この規格は世界の様々な事情を考えて“われわれ”が作るということです。できたものを与えられるのではなく、世界の一員であるわれわれが他国と共同して作り、そのためにわれわれも主張をし、必要とあれば修正もするのです。
コーデックスの会議は基本的に政府間交渉です。非政府組織(NGO)も認められれば発言の機会はありますが投票権はありません。経済問題を含めて、食品業界は専門知識で政府をサポートすることができます。最終的に食品を摂取する消費者を含め、これらの組織が一体となって、言葉の壁を超え、常に情報を収集し、確たる方針の下で会議に臨まなければなりません。そのための恒久的な専門組織を国内に設けることもまた必要でしょう。